●『原水協通信』 1997年8月6日
焼津の私たちが「さかな博士」と呼んで敬愛する日本科学者会議の河井智康さんが、第五福竜丸を「核兵器廃絶をもとめる世界の世論と核兵器にしがみつく勢力との矛盾と対立がいっそう鋭くなる」一九九七年に見事によみがえらせてくれた。この本は核兵器廃絶を願う私たちに限りない励ましと勇気と展望を与え、原水爆禁止運動をいっそう発展させるエネルギーになるにちがいない。
昨年の3・1ビキニデー日本原水協集会うごく分科会(焼津行動)で、河井さんは「3・1ビキニ水爆実験とマグロ漁業」という話をした。戦後の食糧不足にあえぐ当時、とりわけ重要な役割を持っていた日本のマグロ漁業と激化しつつあった世界の核軍拡競争からとらえたビキニ水爆被害事件は、私の頭の中をすごくクリアーにしてくれた。
こんどの本では、それらに当時の世界と日本の政治・経済状況を加えてより広い視野から「運命の一九五四年」「第五福竜丸の三月一日」をみつめ、その意義を世界史のなかにきちんと位置づけている。私はずっしりとその事実が持つ重さを教えられた。
第五福竜丸がどうして世界史を動かす力になっていったか。河井さんは第五福竜丸を海底に沈め消し去ろうとする勢力とこれを守り抜こうとする人びと(第五福竜丸乗船員や船元、日本の科学者、書名などの国民世論、原水爆禁止運動、保存運動)とのたたかいを、関係者の発言や膨大な資料(一九九一年公開の外交文書など)を丹念に追い、化学的にb分析し、するどく豊かな説得力を持って描き出している。第五福竜丸が数多くの軌跡とも言うべき生き残りを果たし、その度に世界に大きな影響を与えてきたことがわかる。
むずかしい問題を扱っているのにとても明快であり、しかも豊かな生きている知識とユーモアに満ちている。そして何より胸を打つのは、練習船「はやぶさ丸」当時乗船して苦労を共にした体験を持ち、第五福竜丸への深い愛情につらぬかれていることである。
ぜひ圧倒的多くの人たちにこの本を読んでほしいと心から願っている。それは久保山愛吉・すずさん夫妻の願いでもあると思う。
(飯塚利弘・元焼津中学教員)