『風はキューバから吹いてくる』を同時代社から上梓して3ヶ月、思いがけないところにキューバへの関心が生まれているのを感じさせるコンタクトがいくつもあったが、そこに共通していたのは「とらわれることなき生」への羨望のような気がする。
「日本よりずっと風通しがいいじゃないか」「将来の欲望の充足に縛られない社会こそ、正常な社会だよね」と、若い諸君からもいわれてうれしい思いをした。
いま、ヨーロッパを発信地にしたゲバラ・ブームが世界を席巻している。
日本でも、若者の間で、ゲバラ・グッズがファッションとして流行しはじめ、単にファッションにとどまらず、その生き方が新たな注目を集めつつある。
そこでのゲバラは、かつてのような政治的人間=「革命児ゲバラ」では必ずしもなく、way of lifeのシンボルとして、多分にイコン的である。
そこには、ラテン的な精神態度、あるいは何物にもとらわれることのないadventurousな人生への憧憬がこめられている。そして、キューバ革命のロマン的ヒーローは、それに最も適合していたからこそ、あらためてヤング・カルチャーの偶像になりつつあるのだろう。
キューバからの風は、僕らを自由にする! チェのTシャツが売れ(先日聞いたTシャツ・ランキングでは堂々の五位である)、渋谷に「CHE」という若者向けの酒場ができたりしているのは、単に風俗現象ではなく、このような精神的希求の反映ではないかと思われてくるのだ。
その流れに棹さす意味で、いま、僕はカミロ・シエンフエーゴスという男を日本に紹介したいと考えている。
キューバ革命のヒーローは三人いたというべきである。悲運のヒーローとしてのエルネスト・チェ・ゲバラ。カリスマ的ヒーローにして、革命後にはアンチ・ヒーローに転化したフィデル・カストロ。そして、「チャチャチャのリズムに乗って革命をやった」キューバ革命の「チャチャチャ」性を最も体現したトリックスターとしてのカミロ・シエンフエーゴス。
カミロは、チェやフィデルに比べると、日本ではほとんど知られていない。だが、キューバやラテンアメリカでは、いまでも、彼らに優るとも劣らない人気を博している。それは、実は彼こそ、ラテン的精神態度とロマン的冒険性の点で、クバーノスやラテンアメリカーノスに最も受け入れられる人間だったからにほかならない。
カミロは、チェやフィデルのようなインテリではなかった。職人労働者である。そして、あっというまにインテリ革命家の群に身を投じ、あっというまに台頭した。革命運動に投じるや、この髭面とカウボーイ・ハットの若者は、最も剛胆で、最も戦争に強いゲリラ戦士として、ある意味ではチェ以上に解放戦争の勝利に貢献したのである。困難な中部戦線をサンタクラーラ解放に導いたのは、チェというよりカミロだったのだ。
アルゼンチンからやってきたインテリのチェより、地元の庶民出身のカミロのほうが、革命直後には、ずっと人気があった。だが、カミロは、革命直後の混乱期に27歳で飛行機事故で死んだ。フィデルやチェによる暗殺だという噂が立った。それだけ庶民の人気があったのだ。
このキューバ革命最大のトリックスター、カミロ・シエンフエーゴスの生涯を描くことを通じて、これまでのフィデルやチェをヒーローとする視角とは違った視角から、revolucion latina(ラテン的革命)の精神と、およそ人の世がある限り、「収まりきれない」人間たちを魅了してやまない「革命家」の冒険的生の相貌を描き出したい、と僕は考えている。
在日キューバ大使夫妻にその意図を話したら、「あなたのような日本人がカミロに関心をもっているのには驚いたし、大変にうれしい。ぜひ本を書いてほしい」と励まされた。
因みに、シエンフエーゴスCienfuegosとは、「百の火」という意味である。いい名前ではないか。