日本が不況だと誰もが信じているが、私はこの3、4年間、「日本は不況ではない」と言い続けている。不況というのは、上がったものは下がり、下がったものは上がるという景気循環の谷間のことで、誰もが年に一度くらいは風邪を引くのにも似た、経済の病理というより生理のようなものにすぎない。もちろん風邪は万病の元で、こじらせて肺炎になったりするので、いまはそういう状態だと言えないこともないが、私の診断は違っていて、これまで百年間、財政と金融を一手に握って経済の血液たるマネーの循環を司ってきた大蔵省という心臓が病んでいることによる血液循環不全である。手術が必要な心臓病患者に、公共投資や減税など月並みな風邪薬をいくら大量に飲ませても癒えることはない。
そもそも日本は国内総生産(GDP)5兆ドルである。米国の8.5兆ドルに次ぐ世界第2の規模であることは言うまでもなく、さらに日本を除くアジア諸国の合計の2倍に当たり、英独仏の先輩先進国3カ国の合計を若干上回るというとんでもない規模である。1人当たりGDPでは、米国を1万ドル上回り、1万ドルと言えば韓国が一昨年にその水準に達したので、つまり日本人一人は米国人一人と韓国人一人を合わせただけの富を生み出す能力を発揮していることになる。こんな働き者の国民は他に存在しない。
このような巨大な成熟した経済は、もはや前年に比べて何%も膨らむものではないし、その必要もなく、ゼロから1%くらいの成長があれば十分だろう。時には1、2%マイナスになることがあるかもしれないが、五兆ドル経済がその程度へこんでも誰も死ぬわけではない。消費が伸びないから減税して、さらに商品券まで配って「何か買え」と政府は言うが、5兆ドルのうち3兆ドルは民間最終消費で、米国の4.9兆ドルには及ばないが、これも1人当たりにすれば米国を上回る。世界最高水準の消費をして、しかも米国がクレジット社会で家計も企業も国家も借金漬けなのとは違って、個人金融資産1200兆円という超絶的な貯蓄もしているのが日本国民で、それに向かって政府が「お前らの働きが悪い」「消費も足りない」と脅しているのは一体どういうことなのか。
そうではなくて、国民は世界一の効率で富を生み出し、世界最高水準の消費と貯蓄をした上、そこそこ真面目に納税もしているというのに、大蔵省を頂点とするマネーの循環装置が退廃しているために、税金から予算へ(80兆円)、郵貯から財政投融資へ(50兆円)、そして銀行・証券・保険の金融部門の護送船団方式という3つの蛇口を通じての富の再配分機能がまともに作動せず、必要なところにはお金が届かなくて、もはや国民経済的に見て必要がなくなった既得権益化したプールにお金が滞留して腐敗するという事態になっている。とすれば処方箋は簡単で、貧しい発展途上国のような、とぼしいお金を全部、大蔵省にお預けしてよろしく配分して頂くというマネーの総動員体制を解除して、すべての個人や企業や地方が自由闊達に知恵を発揮することをお上が妨げないというシステムに原理的に転換することである。それが世紀末日本の中心課題である。