印象に残るひと 俵 万智さん

 

 俵さんが六年ぶりに出した歌集を読んでいたら、

 

 教室のでかい時計の上をゆくおまえは真面目すぎるよ、時間

 卒業式の前の日に知る千円でバラは三本買えないことを

 

 というのがあって、高校の教師をしていたころの俵さんを思い出した。こちらは新聞社に勤めていて、インタビュー記事を書くために会ってもらったことがあった。

 駅ビルの喫茶店で待っていると約束の五分ほど前に電話があり、会議が急に始まったので少し遅れるという。

 インタビューが始まったのは一時間ほど後だったが、その間、「もう少し遅れます。すいません」と二度、電話があった。そのつど、自分の時間のとり方が不用意でこんなことになって、とていねいにいった。言葉にこころがこもっていた。

 インタビュー記事のためにさまざまな世界の「話題の人」に会った。ぜんぶで三百人ほどになる。有名人はみんな忙しいせいかよく遅刻してきたが、その中で、自分の遅刻についてこのようにていねいにきちんと言ってきた人は俵さんだけである。

 超有名なロック歌手やベストセラー作家には何時間も待たされたし、半日待たせておいて一言の挨拶もないテレビのベテラン女性レポーターもいた。みんなその間何の連絡もない。レポーターには、取材をやめさせてもらうことをその場で告げた。(あとから上司に叱られた)。

 俵さんの気持ちときれいな言葉づかいに感激した私はつい、いい気になり「あのう、いかがですか、軽く一杯」といったら、俵さんはきらきらとした大きな目を伏せて「あのう申し訳ございませんけれど…」とていねいにいった。